虚無

記録用です。需要はありません。

「無駄」にこそ、その人の価値が宿るのではないかという話

 

 

妙に好きなシーンがある。

 

「でもときどき、自分がなんで彼女を好きになったかで、悩むときがある。」

 

「私に恋愛の悩みを相談されてもね」

「私、たとえくんのためだったら、両目で針を突けるよ。その代わり失明しても、一生見捨てずに、そばにいてね。どう、これで美雪より私を好きになる?」

「ならないでしょ。だから思い悩む必要なんてないよ。」

彼は返事をせずに黙り込み、私は自分の席に戻った。

 

この作品が映画となって世に放たれたとき、思いの外、主人公に拒絶反応を示すひとが多かったのを覚えている。彼女の「素直さ」は「身勝手」と呼ばれ、「鋭い感性」は「暴力」と忌み嫌われた。

 

「だから思い悩む必要なんてないよ」

 

君に、この一言が言えるか。それくらい言えるさ、と答えるかもしれない。でも「言える」と答えた君のそれは、何の効力も持たない。身勝手さと暴力性にまみれた彼女が、言い放つ言葉だから、本当に、思い悩む必要なんてないと思える。

 

そろそろ、自分に何のメリットもないが、しかし、他人のためになる言葉だけを、扱う人間になりたいと思った。他人を救う言葉によって、自分にメリットをもたらすというのは、私の人生にとっては、ずいぶんと、意味のないことに思えて仕方がなかった。